連載第23回 5月に食べたい寿司だね
江戸前寿司には、その月に旬のピークを迎えるもの、あるいは漁期などの理由でその月にしか食べられないものなど、期間限定の寿司だねがあります。
述べ3.000軒の寿司を食べてきた早川光が、来月にどうしても食べたい、とっておきの寿司だねBest3&4を紹介します。
・第4位 イサキ
第4位はイサキ。どちらかというと関西より関東で親しまれている白身魚ですが、焼き魚にして食べることが多く、伝統的な江戸前寿司ではあまり使われていませんでした。というのもイサキは“足が早い”魚のひとつ。鮮度が落ちるとクセが出てしまうので、握りや刺身では使いにくかったのです。
全国から新鮮なイサキが入荷する今は、夏の寿司だねとして定着しています。白身魚としては血合いの部分が多く、力強い味がするのが特徴。6月から9月が産卵期とされ、それを控えた初夏の頃に最も脂がのります。産地としては長崎や福岡など九州が有名で、五島列島の小値賀島周辺で獲れたものは“値賀咲”という名前でブランド化されています。
ただし本当に大事なのは産地よりも“手当て”。クセの出やすい魚ですから、同じ活け締めのイサキでも血抜きや神経抜きといった丁寧な手当てをしたものの方が味は断然上です。
イサキは血合い部分の味や脂の質が青魚に近い。なので白身魚には珍しく赤酢を効かせたシャリと合います。脂ののったマグロが少ない5月は、マグロより脂の甘みを強く感じることも。赤酢のシャリの店に行った時は、是非食べてみてほしいと思います。
・第3位 アサリ
第3位はアサリ。アサリは味噌汁や炊き込みご飯の具として親しまれていますが、江戸前寿司では古くから握りに使われています。ハマグリと同じように甘辛く味つけした調味液で“漬け込み”にするのが伝統の仕事ですが、粒の大きいハマグリと違って、小さいアサリは4〜5個をひとつかみにする“つかみづけ”にして握るのが作法。つゆが多くシャリが崩れやすいので、握るには高い技術が必要とされます。
アサリは北海道から九州の有明海まで日本のほとんどの地域で獲れる貝で、有名な産地も全国にあります。その中で品質が安定しているのは静岡県浜名湖、愛知県三河湾。そして千葉県富津、船橋などの江戸前(東京湾)アサリ。どれも味は甲乙つけ難いのですが、粒の大きさなら三河湾かなと思います。旬は産地によってズレがありますが、産卵期の直前にあたる4〜6月がベスト。旬の最盛期のアサリは身がパンパンに張っていて旨みたっぷり。何よりダシが濃いので、漬け込みにした時の味の深みが全然違います。
最近は握りではなく丼にして出す店も増えています。僕が好きなのは、湯島『鮨真菜』の“アサリの小丼”。砂糖を使わず、アサリの蒸し汁を醤油と味醂で調味したつゆに漬け込んでいるので、アサリ本来の旨みがしっかりあって、かきこんで食べてしまうくらい旨い。甘くないから日本酒にもよく合います。
【次回最終回】 ※次回連載は4月15日を予定しています。