外国人が“お寿司”を食べる際に生じるハプニングとは…?
来日20年、ドイツと日本のハーフであるコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンが “お寿司” にまつわる「あんなことやこんなこと」について、語ります!
ウニについてじっくりと。その②
前回に続いて今回もウニの養殖の仕事に携わっている山本雄万さんにお話を伺います。
山本さんが日本代表を務める「ウニノミクス株式会社」は「ウニを陸上で蓄養」しています。会社が設立されたメインの目的は「環境保護」とのことです。地球温暖化などが原因で増え過ぎたウニが藻場を食い荒らし「磯焼け」の問題が起きています。これを解消するために、磯焼けの空ウニを採捕し、ウニ専用水槽と専用飼料を使い陸上でウニの身を太らせます。山本さんは水槽の設置からウニの餌やりや飼育など「現場」も担当しています。
こちら、山本さんたちが作った蓄養ウニの販売に協力している根室はなまる銀座店のウニです。
完成ウニのクローズアップの写真はこちらをどうぞ。
本来の目的は環境保護であって、ウニの蓄養はいわば「プラスα」であるわけですが、こうやって見ると・・・本当においしそう!
写真を見ていると、食いしん坊の私は「山本さんは美味しいものに囲まれて毎日が幸せだろうな」なんて思ってしまいます。でも「ウニの陸上での蓄養」という新しいジャンルに挑戦するにあたって、大変なこともきっとあるはず。そんなわけで聞いてみました。「ウニの養殖で大変だったことはなんですか?」
山本さんは「私の仕事内容や業界に限ったことではないと思いますが、何事も前例のない取り組みに賛同者を集め、イチから開始する時は、想定していないことも多く発生するため大変なこともあります。
一緒に活動を行う地域の漁師さん、漁業協同組合、地域行政、大学や海の環境の研究者、流通業者、お寿司屋さんや和食店など複数の関係者を巻き込み団結して取り組むには、関係者の間で活動の目的・目標の共有と信頼関係を構築する必要がありますが、実はこれが一番難しいところでもあります。」と語りました。
なるほど・・・「ウニの陸上での蓄養」はいわばこの業界では「新しい挑戦」なので、色々と大変なことがありそうです。
ウニの養殖の仕事に携わって「うれしかったこと」
でも苦労もあるぶん、山本さんは「現場でうれしいことも沢山ある」といいます。この仕事をしてきてうれしかったことを聞いてみると、色んなエピソードを語ってくれました。長くて一冊の本が書けてしまいそうなので、そのうちの一つをご紹介します。
山本さんは「初めて畜養ウニの試験販売を都内寿司レストランで実施した時」が一番うれしかったのだと語ります。会社に入ったばかりだった山本さんは青森県内で数か月にわたってウニの試験畜養現場の業務に携わり、毎日現地パートナーとともにウニの餌やりや水槽の管理を行っていました。自分自身でウニを飼育するのは初めてだったため、パートナーやヨーロッパ本社水産技術者と相談しながらの試行錯誤が続いたといいます。
そんな試行錯誤の日々の末、初めて「商品となる品質の畜養ウニ」が完成し、都内の寿司レストランで試験販売を実施してもらえることになりました。
山本さんは「水槽から水揚げし、東京へ向けて初のウニの出荷をした時も達成感はありましたが、一番感動したのは、試験販売先の寿司レストランで試験販売現場視察も兼ねてカウンターでランチをしていた時のことです。隣に座っていたお客さんが昨日まで自分が大切に育てていたウニを注文してくれたのです。・・・・自分が育てたウニを口にした時、お客様はどんな表情をするのだろうか?お口に合うのだろうか?とドキドキしながら観察しました。幸いにもそのお客さんは満足している表情で、それを見た時は本当にうれしかったですね。喜びのあまり『このウニは私が昨日まで青森で育てていたものですよ!』と話しかけてしまいそうになりました(笑)」と話してくれました。
山本さんらが試行錯誤のうえ、完成した青森のウニはこちらです。
そして青森のウニのクローズアップはこちら。
ウニの「陸上での蓄養」のメリット
山本さんに改めてウニの陸上での蓄養のメリットについて聞いてみました。
海面ではなく陸上で育てることで、給餌、成長観察などの「畜養管理」がしやすく、ウニが自然環境の影響を受けずに済みます。悪天候でも出荷が可能であるため、出荷調整の面でもメリットがあるわけです。また「国産天然ウニが出回らない時期外れであっても、安定した品質のウニが提供できる」のは「蓄養ウニならでは」です。
山本さんには「消費者にウニの陸上での蓄養についてもっと広く知ってもらいたい」という強い思いがあり、今後ウニ蓄養のワークシップや蓄養ウニの試食会も考えているそうです。
ウニ産地として有名ではなかった大分県で「大分うにファーム」を設立
今年の春からは、大分県の漁業者をパートナーに設立した株式会社「大分うにファーム」を本格稼働開始するそうです。これまでウニ産地としては有名ではなかった大分県で、これからは年間を通して「大分県産の新鮮で、地域の環境改善にもつながる蓄養ウニ」が食べられるようになるというわけです。ちなみに磯焼け対策を目的とするウニの陸上蓄養を行う企業は世界初で世界最大規模とのこと。
こちらがその大分の完成ウニです。
「磯焼け」という漁業にとって脅威である環境問題の解決に向けて、山本さんは今後も「北は北海道から南は九州まで」海のある日本全都道府県を巡りたいと話します。地域の人と交流しながら、日本各地で陸上のウニの蓄養をしていきたいと仕事への熱意を語ってくれました。
・・・私も「コロナ禍が終わったら日本全国をまわってウニの食べ歩きをしたい」と夢が膨らみます。
「サンドラ・ヘフェリンの醤油二度づけ禁止令~外国人をお寿司屋さんにつれて行こう~」は今回が最終回となります。またどこかで皆さまとお会いできますように!
過去のコラムへのリンクはこちらになります↓
第1回
第2回
第3回
第4回
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト。ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住22年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、日本とドイツを比べながら「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」http://half-sandra.com/ 著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「満員電車は観光地!?」(流水りんことの共著 / KKベストセラーズ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)、「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)など。
ホームページは 「ハーフを考えよう!」 http://half-sandra.com/