連載第48回 サンドラ・ヘフェリンの醤油二度づけ禁止令~外国人をお寿司屋さんにつれて行こう~

外国人が“お寿司”を食べる際に生じるハプニングとは…?

来日20年、ドイツと日本のハーフであるコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンが “お寿司” にまつわる「あんなことやこんなこと」について、語ります!

 

ウニについてじっくりと。その①

 

前に【ウニの食べ比べ】をしたことがあるぐらい、ウニと聞けば心が躍ります。

 

ヨーロッパの真ん中の内陸部の出身(←私です)で「ウニが好き」というのは結構珍しいケースかもしれません。ちなみに以前この連載に登場していただいたノルウエー人のアネッテさんのように、海に囲まれた北欧のほうがやっぱり「海のものもオッケー」な人が多い気がします。

 

そんなアネッテさんのご主人山本雄万さんはウニの養殖に携わる仕事をしています。その名も「ウニノミクス株式会社」です。「あのアベノミクスとは関係があるのですか?」と聞いてみたら・・・・何の関係もないとのことでした。

 

「ウニノミクス株式会社」は水産大国であるノルウェーに本社を置く水産ベンチャー企業で、山本さんはその日本事業推進の責任者です。名前の通り、ウニの養殖に携わっている会社ではありますが、実はウニの養殖はあくまでも「プラスα」であり、会社が設立された趣旨は「環境保護」とのこと。なるほど、さすが環境先進国ノルウェーですね。

 

ではこの環境保護とは具体的にはどんなものなのでしょうか。

 

現在、地球温暖化などが原因で増え過ぎたウニによって藻場が食い荒らされる「磯焼け」の問題が起きているとのこと。磯焼けを解消するためには、定期的なウニ漁または間引きなどによるウニ個体数の「管理」が不可欠ですが、磯焼け地域に生息するウニの多くは痩せており身入りが悪いため売り物にならない、という問題が起きているようです。そういった「痩せているウニ」は通常漁獲されず、かつ十分な駆除や移植などの管理を行うには潜水士の人件費など多大なコストがかかるため解決が簡単ではありません。

 

かといって、このままの状態を放っておいてしまうと、放置されたままの磯焼けウニが繁殖を続けるため、「健全な海の生態系に不可欠な藻場」を食べつくしてしまうというわけです。山本さんが日本代表を務める会社「ウニノミクス株式会社」はこの問題の解決策として、磯焼けの空ウニを採捕し、陸上でウニ専用水槽と専用飼料を使いウニの身を太らせるという「陸上の畜養」をしています。

 

ウニの「陸上の蓄養」への山本さんの思い

 

この「陸上の蓄養」について山本雄万さんはこう語ります。

 

「実は日本で消費されているウニのほとんどが海外からの輸入品です。そして国産・輸入であるかを問わず、消費者が口にするウニのほとんどが天然物または一般的な食材であるため、『蓄養ウニ』という新たなジャンルを受け入れてもらうのが大変なこともあります。

 

というのも、日本では養殖物よりも天然物の方が消費者から高く評価されがちだからです。友人の寿司職人に『養殖と天然の魚についてどう思うか』と質問したことがあります。お店は天然、養殖にかかわらず、『品質や味にこだわり自信を持って提供できるもの』しか扱っていないのですが、お客さんから不意に『このネタは天然?』と聞かれ、それが養殖物だった時は無意識に『すみません、養殖物です』と答えてしまうことがあると明かしてくれました。『養殖物じゃお客さんに申し訳ない』という感情や雰囲気はどこから来ているのだろうと考えることがあります。

 

天然物には素晴らしく美味しいものもあるのは事実ですが、天然が故に全ての天然の魚が最高品質なわけではありません。養殖物は人間が管理を行うので品質が安定していますし、『どのような環境で何を食べて育った魚なのか』という分かりやすさもあります。

 

そのため本来は天然物と養殖物はそれぞれの良いところがあり、特徴がある別物なので、比較してどちらがどうだと批判し合うようなものではないのだと個人的には思います。一方でノルウェーを代表するサーモンは完全に養殖物ですが、今となっては人気寿司ネタ総合ランキング1位であり高く評価され、消費者から愛される養殖物もあります。

 

ウニノミクスが手掛ける畜養ウニもノルウェーサーモンのように愛される商品に育てていきたいと思います。」

 

・・・とその熱い思いを語ってくれました。

 

ウニの「蓄養前」と「蓄養後」

 

たとえば陸で蓄養された宮城のウニはこちらです。

 

こちらが「蓄養前」のウニです。

宮城ウニ蓄養前

 

言葉は悪いですが、本当に中身はスッカラカンですね。。(正式には「ウニが痩せている」という言い方をするそう。)

 

そしてこちらが蓄養後のウニです。

宮城ウニ蓄養後

 

美味しそうですね~。ウニが上の写真1から写真2までに成長するには約8週間かかるとのこと。

 

「美味しい蓄養ウニ」を作るために「ウニノミクス」では、飼料にこだわり昆布のうま味成分と栄養が凝縮された専用飼料を使っているとのことです。「環境に優しく」がモットーのため、ホルモン剤や抗生物質、遺伝子組み換え素材、保存料を使用していないので、「蓄養だけれど自然」なウニが出来上がるというわけですね。

 

夫婦の絆も「海のもの」

 

こちら、回転寿司で生ウニを楽しむ山本雄万さん&アネッテさんご夫婦です。

 

こちらは根室はなまる銀座店で、山本さんの蓄養ウニの試験販売に協力してくれているお店です。回転寿司でウニを丸ごといただけるなんて贅沢ですよね。「コロナ禍が終わったら行きたい場所」が一つ増えました!

 

それにしても・・・この写真から伝わってくるラブラブ感。下世話なのはわかっていますが、「ご夫婦のなれそめ」を教えてほしいと山本雄万さんにお願いしたら、快く教えてくれました。

 

「アネッテは私が在学していた京都の大学へ1年間の留学プログラムで来日し、キャンパスで知り合い友達になりました。真面目な学生だった2人はよく図書館で偶然に会い、気づけば宿題や勉強を一緒にするスタディバディになっていました。ひょっとするとアネッテにいいところを見せるために勉強熱心さを演出していた部分もあるかもしれませんが」とのこと!

 

妻のアネッテさんが現在クリルオイル原料メーカーであるノルウェー企業アーケル・バイオマリン社の日本代表として働いていて、山本雄万さんご自身もノルウエーの会社の日本支社で海の環境保護とウニの蓄養にまつわる仕事に携わる、というふうに「夫婦そろって水産・漁業業界の仕事に就いていること」に面白い縁を感じているそうです。

 

前述通りアネッテさんは「1年間の留学プログラム」で来日したので、本来は一年でノルウエーに戻るはずでした。でも山本雄万さんと出会ったことで日本に残り、順調に交際を育み結婚。国際結婚にありがちな「意思疎通の困難によるすれ違い」のようなものはないとのことで、笑いのツボも一緒なんだそうです。・・・・ご馳走様でした。

 

次回もウニの話、続きます。

 

次回は2021年3月下旬更新予定です。

 

 

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サンドラ・ヘフェリン

コラムニスト。ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住22年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、日本とドイツを比べながら「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」http://half-sandra.com/ 著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「満員電車は観光地!?」(流水りんことの共著 / KKベストセラーズ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)、「なぜ外国人女性は前髪を作らないのか」(中央公論新社)など。

ホームページは 「ハーフを考えよう!」 http://half-sandra.com/

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