外国人が“お寿司”を食べる際に生じるハプニングとは…?
来日20年、ドイツと日本のハーフであるコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンが “お寿司” にまつわる「あんなことやこんなこと」について、語ります!
10年修業の寿司職人 VS 1年勉強の寿司職人
私事で恐縮ですが、昨年ほぼ引きこもって書いていた本がようやく出来上がり、現在好評発売中(?)でございます。
本のタイトルは、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)です。
一見「スポーツや運動会の話?」と思ってしまいそうなタイトルですが、日本の学校や会社を中心に書きました。
今の日本には、昭和の時代のような「頭にハチマキを巻いてがんばる」というような分かりやすい体育会系はなくなってきているものの、「なにがなんでも仕事を優先すべき」「それができないのは甘え」というような雰囲気はまだまだ残っています。だから、風邪をひいても仕事を休みづらいですし、「仕事で苦労をするのは当たり前」と考える人も多いです。「どんな仕事も長く続けることで、ようやく一人前になれる」と信じる人が多いです。そういえば、日本には「石の上に3年」なんていう言い回しもありますね。
寿司を握る職人さんに関しては、「石の上に3年」どころか、「一人前になるためには『飯炊き3年、握り8年』が当たり前」の世界です。最初、これを聞いた時、「え~!10年以上!?」と叫んでしまいました。
なんでも、1年目は洗い場やホール業務、出前などを担当し、2、3年目あたりで飯炊きが許され、小魚や貝類を捌いたり、玉子を焼いたりできるのだそうです。カウンターに入る事が許されるのは、なんと4、6年目ですが、「握り」ではなくまずは巻物や軍艦を担当します。ヨーロッパ人の感覚だと、「6年にもなるのに、まだ握りを担当させてもらえないの?!」と思ってしまいそうですが、これがニッポンの寿司職人の伝統なのですね。「握り」の担当を任せてもらえるのは、なんと7~9年目になってから。寿司職人は「10年でやっと一人前」の世界だそうです。き、きびしいですね~。
師匠や先輩のもと「まずは基本」とされる作業をじっくりやるのがニッポン流の師弟関係なのですね。
日本の学校のテニスの部活でも、「どんなにテニスが上手であっても新人や後輩はまずは先輩の球拾いから」です。
人間としての成長を考えると、下積みが長いのは悪いことばかりではないのかもしれませんが、上下関係が重んじられた結果、なかなか「本番」(ここで言う本番は寿司を握ったり、ラケットを握ったり)をやらせてもらえない問題は残ります。
ホリエモンも絶賛の寿司アカデミー
そんな伝統色が強いニッポンで、以前ホリエモンが「寿司職人が何年も修業するのはバカ」と発言したことがありました。まあ「バカ」は所謂「ホリエモン節」だと思いますが、ホリエモンに限らず、近年はグローバル化に伴い、必ずしも何年にもわたる修業は必要ないのではないかと考える人が出てきています。
SUSHIが世界でブームになるにつれ、「外国でお寿司屋さんを開きたい」という夢を持ち、「短い期間で寿司の勉強をしたい」と考える人が国籍を問わず多くなりました。東京すしアカデミーはまさに「外国でお寿司屋さんをやりたい」という夢を抱く人にとって貴重な場所です。様々なコースがあり、2か月間の集中コースもあれば、週末だけを利用し約1年かけて「寿司職人」になれるコースもあります。
もちろん伝統的な職場で長年修業をしてきた「本格的」な寿司職人からしたら言いたいことも沢山あるのだと想像します。
考えてみれば、サンドラの出身のドイツでもかつてはマイスター(一人前の職人)になるまで4年以上かかることも珍しくありませんでしたが、実はこのドイツのマイスター制度も、EUの誕生と共に緩和されてきています。かつてのドイツでは、たとえば大工さんは長い研修の末、職人試験を受けないと仕事をすることが許されていませんでした。でも今は比較的簡単にできる作業に関しては、何か月間の短い研修を受ければ職人試験を受けなくても作業にあたることが認められるようになりました。
日本の「寿司職人」にしても、ドイツの「マイスター制度」にしても、グローバル化によってその制度が緩和されつつあるというのが面白いですね。
前述通り、ドイツの場合はEUとともにマイスター制度の厳しさがある程度緩和され、ニッポンに関しても、SUSHIのグローバル化に伴い「昔ながらの下積みの長い職人」とはまた違うタイプの、「集中的に短期間で研修を受けて、サッと寿司シェフになる人が登場」しているわけです。
今後外国人が増えていくニッポン。SUSHI業界に限らず、「新人はまず雑巾がけから」というような「体育会系」は今後必然的に少なくなっていくのかもしれません。
※次回は2020年4月初旬に更新予定です。
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第4回
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト。ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住22年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、日本とドイツを比べながら「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」http://half-sandra.com/ 著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「満員電車は観光地!?」(流水りんことの共著 / KKベストセラーズ)、「体育会系 日本を蝕む病」(光文社新書)など。
ホームページは 「ハーフを考えよう!」 http://half-sandra.com/