連載第31回 サンドラ・ヘフェリンの醤油二度づけ禁止令~外国人をお寿司屋さんにつれて行こう~

外国人が“お寿司”を食べる際に生じるハプニングとは…?

来日20年、ドイツと日本のハーフであるコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンが “お寿司” にまつわる「あんなことやこんなこと」について、語ります!

 

「ファストフード」からいつの間に「高級品」へと変貌と遂げる

 

以前、お寿司の立ち喰いに挑戦した話を書きました。ドイツでは立ったままモノを食べるというのは特に下品なことではありませんので、女ひとりで立ち食い寿司屋さんに入るという私の初体験もスンナリといきました(笑)

 

考えてみれば、「お寿司を座って食べるようになった」のも、お寿司が「高級品」となったのも、長いニッポンの歴史をみれば「ごく最近」…は言い過ぎかもしれませんけれども、比較的最近のことだといえるでしょう。もともとは、お寿司はそれこそ立ったままササッと食べることができる「江戸っ子のためのいわばファストフード」だったのですから。手でお寿司をつまんでパッと醤油をつけてパクッと口の中へ。忙しい商人さんなどが仕事の前や合間にパッと食べるものだったようです。そう考えると、お寿司のスタートはいわば立ち喰い&ファストフードだったといえるのかもしれません。ただ、江戸のファストフードといえども、値段はちょっぴり高めだったとのこと。

 

色々と調べたところ、江戸時代はお寿司の「一貫」がけっこう大きかったよう。ところが、その後、様々な工夫がされ、色々と手をかけているうちに、もとから値段は決して安くなかった寿司がさらに高くなり、「高級品」として扱われ、そしてこれが一番許せないところですが・・・「一貫」のサイズが小さくなりました(笑)

 

江戸時代には「大きい一貫」で出されていた寿司が、いつの間に「小さい二貫」を出すのが上品だとされました。

 

今のニッポンでは、「お寿司は座って食べる」といういわば高級食ですが、「立ち喰い寿司」は原点に返るというかある意味復権なのかもしれません(笑)

 

・・・とお寿司の歴史について、調べながら色々考えていたのですが・・・何かと似ているような。・・・って、思い出しました。そうなのです。前にも登場したドイツはミュンヘンの白いソーセージの歴史となんだか重なるのでした。

というのも、ヴァイスヴルスト(白いソーセージ)も元々は庶民のお食事でした。江戸っ子ではないけれど、ミュンヘンっ子の食事ですね。そもそも、白いソーセージが生まれた背景が面白いのです。諸説あるものの、一般的に知られている説では、19世紀の半ばのミュンヘンはマリエン広場の食堂が客で埋まっている時に、その食堂のオーナーのオッサンがソーセージを作るために必要な羊腸を「切らしてしまった」ところから始まります。仕方なく、見習いの部下に羊腸を買ってくるように頼んだところ、部下が間違えて豚の腸を買ってきてしまいました。ただ豚の腸だと、焼きソーセージにするには硬すぎるのと大き過ぎてしまう。かといって、店には既に多くのお客さんが来ています。そこで、「その場しのぎ」の思いつきでオーナーが、豚の腸を使い、ソーセージを「焼かず」に「茹で」ました。焼くと外側が破けてしまうのではないかという理由からでしたが、このようにして、白いソーセージは「いわば、ちょっとしたミスの積み重ね」で偶然にできあがったものだったのです。ちょっとニッポンの納豆のようですね。

 

オクトーバーフェストやドイツのカーニバル(ファッシング)などの地元の庶民的な祭りで食べられるようになったヴァイスヴルストでしたが、その後、子供の洗礼や誕生日やクリスマスという「特別な日」に食べられるようになったことから、だんだんとヴァイスヴルストが「特別なもの」になり、いつの間に高級品の仲間入りをしていたのでした(笑)・・・ちょっとこのあたりの流れがお寿司と似ていると思いませんか。

 

まあ、ヴァイスヴルストの場合、脂肪が多く、1本か2本食べれば、すぐにお腹いっぱいになってしまい、実はあまり大量に食べられるものではありません。「2本」いただけばじゅうぶん。なので、「少ない量をじっくり味わっていただく」という点もヴァイスヴルストに高級感をもたらしたのかもしれません。そして、ヴァイスヴルストが誕生した当初は、豚の腸に「肉」しか詰めていませんでしたが、その後、パセリ、生姜(ジンジャー)、カルダモン、胡椒などを入れて味を少しずつ調整していった中で、ヴァイスヴルストが上品化していったというわけです(笑)ちなみにニッポン国内のドイツ料理店ではもっとお上品に「1本」だけ出てきたりします。

でも、「もとは庶民の食べ物」だったのですね、寿司もヴァイスヴルストも。

 

そういえば、昔の江戸っ子はお寿司を手で食べていましたし、ヴァイスヴルストだって、ミュンヘンっ子はナイフやフォークを使わずにソーセージを手にもって口にくわえ、白ソーセージの中身を吸い取って食べていたのですよ!

 

そんなこんなで、日本に限らず、時代の流れにともない、「食」のイメージが「庶民の食材⇒高級食材」というふうに変貌を遂げているのは、なかなか面白いですね。・・・と色々考える秋の夜長です(笑)

 

※次回は10月中旬に更新予定です。

 

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サンドラ・ヘフェリン

コラムニスト。ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住21年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、日本とドイツを比べながら「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ」(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)、「爆笑! クールジャパン」(片桐了との共著/アスコム)、「満員電車は観光地!?」「男の価値は年収より「お尻」!?ドイツ人のびっくり恋愛事情」(流水りんことの共著/KKベストセラーズ)など計12冊。ホームページは 「ハーフを考えよう!」 http://half-sandra.com/