『早川光 江戸前寿司の世界~至福のおまかせ編~』第一回赤坂「すし晴」前編

『早川光 江戸前寿司の世界~至福のおまかせ編~』

第1回 赤坂「すし晴」

 

“おまかせ”は江戸前寿司のコース料理。

その季節、その月ならではの旬の魚と食材を用い

先付からおつまみ、握り、そして最後の口直し(デザート)まで

修業で培った目利きと技術を駆使して、至福の味を生み出す。

そこには、江戸前寿司の魅力のすべてが詰まっています。

 

そんな“おまかせ”の醍醐味を余すところなくお伝えしようという

『早川光 江戸前寿司の世界~ 至福のおまかせ編~』。

第一回は赤坂の人気店『すし晴』の“おまかせ”をご紹介します。

 

親方の佐藤治彦さんは、18歳から8年間、浅草の老舗「金太楼鮨」で江戸前鮨の基礎を学んだ後、料理の幅を広げるため和食店で3年間修業。そして西麻布の名店「すし天」で11年間も研鑽を積んだ気鋭の職人。

伝統的な江戸前寿司に和食のエッセンスを加えながらも、決して奇を衒うことなく、まっすぐに“旨い寿司”を追求しています。

 

《先付 しじみ出汁》

 

席についてまず供されるのはしじみ出汁。青森県十三湖産のしじみから取った極上のスープです。

「お酒を召し上がる前の胃の準備運動です。しじみには肝臓にいい成分も入っていますので」と親方。

余計な味つけがされていないので、旬のしじみ特有の深い旨みと甘みが舌から胃の腑へと伝わり、一気に食欲が湧いてきます。

 

《握り1カン目 マグロの皮ギシ》

おまかせのスタートを飾るのはおつまみではなく握り。それもマグロのすき身の握りをパリパリの海苔の上に乗せて出すという変則のスタイル。

「今日のマグロは三宅島産の220キロ。その皮ギシ(皮と身の間の部分)をすき身にしました。下に敷いたのは有明産の新海苔ですが、これがマグロと非常に相性がいいんです」

食べれば上質な海苔が一瞬にして融け、皮ギシの身とひとつになることで、舌の上で旨みが何倍にも膨らむのを感じます。赤酢がブレンドされたシャリとマグロの相性もぴったりで、味わうほどに笑みがこぼれてしまいます。

 

《おつまみ1品目 岩もずく》

最初のおつまみは、石川県能登半島産の『岩もずく』。

「できれば、おつゆと一緒に召し上がって下さい」と親方。

このおつゆは三杯酢にかつお出汁を加えた“土佐酢”。シャキシャキの天然もずくと一緒に口に含めば、まろやかな酸味が清涼感をさらに引き立てます。

 

《おつまみ2品目 ホタテ貝刺身》

2品目は北海道野付半島産天然ホタテ貝の刺身。お湯をかけて少しだけ火を通す“湯霜”という技法を使っています。

「熱湯ではなく80度のお湯を使うことで、味だけでなく食感もよくなるんです」

湯霜によってホタテは心地よいふんわりした舌触りに変わり、甘みもぐっと際立ちます。

 

《おつまみ3品目 ホタテ貝の卵巣と精巣》

次は同じホタテ貝の卵巣と精巣。どちらも産卵期を控えたこの時期(3〜4月)にしか食べられません。精巣は白く、クリーミーでまったりした味わい。そして卵巣は赤みがかったピンク色。精巣より甘みが強いのが特徴です。

上から少量の胡麻油を振るのが親方の技。こうすることでコクが出て、卵巣は上等なレバ刺のような味わいに。

 

これは日本酒が合うはず‥ということで最初の日本酒を注文。

親方がセレクトしてくれたのは、奈良県『今西酒造』の純米吟醸『みむろ杉』。無濾過生原酒の限定品です。

「香りの柔らかい旨口の酒なので、レバ刺のような卵巣とはよく合います」

飲めば口の中で卵巣の甘みと『みむろ杉』の旨みがほどよく調和し、思わず唸ってしまいます。

 

《おつまみ4品目 メジマグロ刺身》

次のおつまみは、新潟県佐渡島産のメジマグロの刺身。

しっかり脂ののった腹の身に少し塩をあててから、藁の火で皮目を炙って“たたき”にしています。

「メジマグロは皮が旨いので、あえて皮をつけたまま炙っています」

塩をあて脱水することで旨みを引き出し、藁の火でスモーキーな香りを纏わせたメジマグロ。これまた旨口の『みむろ杉』にぴたりと合います。

 

《おつまみ5品目 赤貝のヒモ》

濃厚なメジマグロの後はさっぱりした赤貝のヒモ。少しだけ煮キリを塗って供します。

「ここからちょっと濃い味が続きますので、まずは爽やかな赤貝の風味を楽しんでいただけたらと思います」

ヒモは身よりも旨みが強く、噛めばコリコリした食感と花のような香りが楽しめます。

 

《おつまみ6品目 ホタルイカ沖漬け》

ここで登場したのが、今が旬のホタルイカ。

煮切った(アルコール分を飛ばした)日本酒と味醂に醤油を加えたつけ汁で“沖漬け”にして供します。

塩辛とはまた違う、まろやかで甘みのある味わいに、さらに日本酒が進みます。

 

《おつまみ7品目 ホタルイカ炙り》

次は、同じ富山湾産ホタルイカの炙り。ボイル(茹でる)ではなくスチーム(蒸す)で加熱処理をしたホタルイカを使い、下味をつけずに炙ったもの。

「味にバラつきがあるボイルと違って、スチームはホタルイカの風味がそのまま残っているので味をつける必要がないんです。まさに素材の味だけ。それでもめちゃめちゃ旨い。これに酢味噌をつけるなんて勿体ないです」

絶妙な加減で炙ったホタルイカは、肝の味わいが濃厚。ホタルイカは淡白なものというイメージを覆す美味しさです。

 

《次回に続く》