外国人が“お寿司”を食べる際に生じるハプニングとは…?
来日20年、ドイツと日本のハーフであるコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンが “お寿司” にまつわる「あんなことやこんなこと」について、語ります!
お寿司の「現地化」は避けられない?海外のSUSHI文化
先日「ぶっこみジャパニーズ」というテレビ番組を見ていたら、海外の一風変わったお寿司が紹介されていました。
ちなみに「ぶっこみジャパニーズ」とは、誤解されたまま海外で広められたニッポンの武道や芸道、食文化などにニッポン人の「その道のプロ」が文字通りぶっこんでいく番組。
例えば海外の柔道クラブに乗り込み、ニッポンの「その道のプロ」の人が最初は何も分からないフリをしながら、現地で幅を利かせている「先生」にあくまでも低姿勢で学び、散々バカにされながら、最後の最後で「自分がその道のプロである」ということを凄ワザの披露とともに明かし、現地の人に喝采を浴びる・・・という番組です。当然、海外で誤解されている日本の文化の「正しい形」を現地の人に「教える」、という要素も含まれています。
さて、ニッポンには現在様々な国の食文化が入ってきているため、東京にいながらまさに世界中の料理がおいしく食べられます。中華に韓国料理、フランス料理にイタリアン、そしてドイツ料理。
ただ、これらもいってみれば、「現地化」つまりは「ニッポン化」されています。
たとえば私も東京で実際に行ってみて「おいしい!ドイツ現地と同じ味だ!」と満足するドイツ料理店はあるのですが、そんなお店でもたとえば「量」に関しては完全に日本化されていたりします。ドイツの「本場」であれば、ソーセージが2本、4本と出てくるところが、日本だとお上品に「ソーセージは1本」ということもありますし、全体的に前菜もメインもデザートも、まあサイズが「小さい」のですね。なので、これもまあドイツ本場の感覚でいえば、「そんなにチマチマと少量で出てくるのは、オリジナルとは違う!」と怒り心頭なわけです(笑)
さて、本題のSUSHIに話を戻すと、冒頭のテレビ番組「ぶっこみジャパニース」では、ブラジルのなんとも情熱的なお寿司を紹介していました。全体的にサイズが大きくて豪快ですし、レストランのスタッフが客のいるテーブルにお寿司を提供する際に、なんと寿司に「火」をつけて出す様子が紹介されていました。
なんでも、お寿司のまわりの皿の部分にカシャーサという酒が入っていて、そこに火をつけ、その燃え上がるような(?)寿司を見て楽しむというわけです。
一味変わったお寿司は見慣れているはずの私ですが、テレビを見ていて、このブラジルのSUSHIに不覚にもびっくりしてしまいました。
写真でお見せできなくて残念なのですが、ブラジルでは「お寿司」といえば「巻きずしを丸ごと揚げた」ものが多く、まわりに衣がついているのだそう。「ホットロール」と呼ばれるもので、この「温かい巻き寿司」がだいぶ前から人気なのだそうです。
それにしても日本人にとっては「寿司」イコール「鮮度」ですが、ブラジルだとお寿司を丸ごと揚げてしまうところに、やっぱり国による食文化の違いを感じます。
ブラジルに長期滞在していたある日本人のブログには「カリカリに揚げてある葉物がたっぷりのった海苔巻き」の写真が載っていました。こちらのトップにあるお皿の右上にある黒っぽい物がそれにあたります。
お寿司が七変化を遂げるのはブラジルばかりではありません。先日ポーランド出身の友達がSNSでPolska w dużych dawkach(ポルスカ・ヴ・ドゥジフ・ダフカフ。ちなみにサイト名は日本語に訳すと「ポーランドの大量摂取」という意味)というサイトをシェアしていたのですが、まさにポーランド化したこんなお寿司が紹介されていました。ピエロギ(pierogi)というポーランドではよく食べられている食材がそのままお寿司にのっているので、違和感なく食べられるのだとか。
人間が外国に住むと、現地の風習などを受け入れ、ある意味「現地化」するように、食べ物だって、現地化するのでした(笑)
外国の食べ物をひろめる際、未知のものを食べてもらうために、元々その国で「なじみのあるもの」や「なじみのある味」と組み合わせていることも多いのです。そのようにしないと、そもそも多くの人に食べてもらえない、という現実もあるので、お寿司も例に漏れず、「ニッポンではありえないような寿司が海外にはあったりする」わけです。こちらの一番下の「イチゴのお寿司」のように。
「本国」で元々その食材にプライドを持って接してきた人の「こんなのは、オリジナルとは違う!」と言いたい気持ちはわかります。そして冒頭のテレビ番組「ぶっこみジャパニーズ」などは、まさにその「こんなのは、オリジナルと違う!」というニッポン側の気持ちをベースに番組作りをしているように感じます。
でもよくよく考えてみれば、これは「お互い様」だったりもします。ニッポンにあるドイツ・ビアホールやドイツ風居酒屋に、「ドイツ」と書いてあるのに、ドイツではあまりなじみのない、どこからどう見てもニッポン風の「海老フライ」がメニューに載っていたりするように、海外でもまたSUSHIは現地の人の趣味嗜好に合わせて変化を遂げているのでした。
私もこの「違い」をおちょくったり楽しんだりしながらこの連載に書いているわけですが、実は食べ物について「本気」でこれはけしからん!許せない!と思ったことは・・・・ないです。何せしつこいようですけど、「お互い様」ですからね。
そうはいえども、私はニッポンでニッポンのオリジナルの、「外」から何の手も加えられていないお寿司をいただける幸せも実感しております。さて、今度はどこに食べに行こうかしら?・・・皆様また2月上旬にお会いしましょう!
次回の更新は2月上旬頃を予定しております。
過去のコラムへのリンクはこちらになります↓
第1回
第2回
第3回
第4回
サンドラ・ヘフェリン
コラムニスト。ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、日本とドイツを比べながら「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に「ハーフが美人なんて妄想ですから!!」(中公新書ラクレ)、「ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ」(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)、「爆笑! クールジャパン」(片桐了との共著/アスコム)、「満員電車は観光地!?」「男の価値は年収より「お尻」!?ドイツ人のびっくり恋愛事情」(流水りんことの共著/KKベストセラーズ)など計12冊。ホームページは 「ハーフを考えよう!」 http://half-sandra.com/