NEW『早川光 江戸前寿司の世界』55~神無月の第一貫~

《ブリ》

この季節にしか味わえない脂の甘み

ブリは成長段階に応じて呼称が変わる“出世魚”。東京の市場では体長20センチ前後のものを『ワカシ』、40センチ前後を『イナダ』、60センチ前後を『ワラサ』、そして1メートル以上に達した大型のものを『ブリ』と呼びます。

成長したブリは春から夏にかけ日本近海を北上し、9月から10月にかけて北海道に到達します。このうち積丹半島沖の定置網で獲れたものを“天上ブリ”と呼び、人気の寿司だねとなっています。

銀座『鮨鈴木』の親方、鈴木孝尚さんも、この天上ブリを好んで使います。

「この時期のブリは、真冬の寒ブリとは違う美味しさ。ほどよく脂がのっていて、その脂が甘いんですよね。だからうちのシャリと相性がいいんです。ただし身が少し固いので、薄く切りつけてから握ります」

紙のように薄く切ったブリの腹の身を三枚重ねにした握りは、ふわりとした食感ながら適度な歯応えがあり、噛めばブリの脂と辛口のシャリが渾然一体となって、甘みがさらに際立ちます。