『早川光 江戸前寿司の世界』54~長月のマグロ~

《マグロ》

さらりとして品のいい脂を楽しむ

目黒『鮨りんだ』の親方、河野勇太さんが握る9月のマグロは、アメリカ、ボストンで獲れたホンマグロ(大西洋マグロ)です。

「僕はニョーヨークの寿司屋に3年間いて、

大西洋マグロを使っていたので愛着があるんです。味は国産のものと遜色ないですし、魚体は大きくても脂はさらりとして品がいい。ただし筋が太くて歯に当たるので、大トロの部分は包丁で筋を外します」

河野さんは“はがし”と呼ばれる手法でマグロの白い筋を外します。筋に逆らうのではなく沿うようにして包丁を入れ、丁寧に切り取っていきます。これは高い技術を持つ寿司職人にしかできません。

「ボストンのマグロは少し身が固いので、筋を外した身を薄切りにして、数枚重ねてから握ります。こうすると舌に触れる面積が増えて、脂が融けやすくなるんです」

薄切りを四枚重ねにした大トロは、噛む必要がないほどのふわふわの柔らかさ。舌に乗せればあっという間に脂が蕩け、極上の旨みだけが残ります。