『早川光 江戸前寿司の世界』48~葉月のマグロ~

~マグロ(背トロ)~

脂の甘みと赤身のコクをいっぺんに味わう

四谷荒木町『鮨わたなべ』の親方、渡邊匡康さんが選んだ8月のマグロは、北海道噴火湾産の“背トロ”。

背トロとはマグロの背びれの下にある中トロのこと。赤身にまんべんなく脂がまわっているので、脂の甘みと赤身のコクをいっぺんに味わうことのできる極上の部位です。

「夏のマグロの特徴は酸味と香りですよね。酸味だけ味わうなら赤身でもいいんですが、そこに香りと脂の甘みが加わったのが“背トロ”です。僕はこれが一番旨いと思います」

渡邊さんはマグロの熟成にもこだわります。仕入れたマグロは紙で何重にも包んでからビニール袋に入れ、しっかり空気を抜いて、氷温に設定した冷蔵庫で寝かせます。

「今日のマグロは魚体が小さいので4日ですが、いつもは1週間ぐらい寝かせます。熟成で大事なのは温度管理と空気に触れさせないこと。そこには毎回気をつかいます」

味と香りがよくわかるようにマグロを厚めに切って握るのも渡邊さんのこたわりです。

「マグロは口いっぱいに頬張って食べた方がおいしいじゃないですか。それが舌の上で融けて、脂が溢れた時の快感こそが、マグロの醍醐味ですよね」