『早川光 江戸前寿司の世界』39~文月の第三貫~

~シンコ~

江戸前寿司の夏の風物詩

シンコとは体長数センチのコハダの幼魚のこと。初物を好む江戸っ子がこよなく愛する寿司だねで“夏の風物詩”とも言われています。例年6月末頃から登場し、8月下旬くらいまでの約2ヶ月間は寿司屋の主役です。

「うちで使うのは出始めから7月末までの1ヶ月くらいです。今日のは四枚づけ(四尾で一貫分)のサイズですが、二枚くらいが一番旨いと思います」

シンコの仕込みの工程は親のコハダと全く同じ。一尾一尾包丁で捌き、塩を振って、酢じめにします。それをわずか数センチの魚に施すわけですから、高い技術と集中力を必要とします。

「何十尾も仕込むのは大変ですが、お好きな方が多いので手は抜けません。毎年今の時期になると『シンコ入った?』というお客さまの確認の電話が必ずかかってきますから」

シンコの握りを食べると、味は確かにコハダなのに、数回噛んだだけですーっと融けてなくなり、心地よい旨みと爽やかな香りだけが後に残ります。その儚さもまた魅力なのです。